睡眠と便通の状態は関係があります

睡眠が身体に与える影響

便通状態が悪い人は睡眠の質も悪くなっています

東京圏の成人女性を対象とした便通状態と睡眠健康に関する疫学的調査という研究論文を引用・参考にしています。


便通に異常を来している場合、便通良好群に比べて、眠気が強かったり睡眠時間が短かったりします。また、生体リズムに関連した就床時刻や睡眠時間、睡眠習慣も不規則です。

消化管の活動

消化管運動は、起きている時に活発で眠っている時は穏やかだという、睡眠-覚醒リズムと同様なリズムがあります。そして大腸内の腸内細菌の細胞壁に由来するムラミルペプチド類は睡眠物質として作用します。また、腸内細菌の増殖状態は、消化管運動の状態に影響されることも分かっています。そのため、腸内細菌の住処である大腸の運動状態、つまり便通の状態が睡眠に影響する可能性があるのです。

消化器疾患の種類

消化器疾患の代表として過敏性腸症候群(IBS)と機能性便秘(FC)があります。過敏性腸症候群(IBS)は、副交感神経の持続的な緊張状態によって腸管の運動が激しくなったり、分泌亢進による腹痛、下痢、粘液便、便秘、腹部膨満感を症状とする疾患です。一方、機能性便秘(FC)は、腸管の緊張がゆるみ腸管の運動が行われないため、大腸内に便が長くとどまり、水分が過剰に吸収されて固くなるタイプです。女性に多く、いわゆる便秘です。過敏性腸症候群(IBS)は若年女性で顕著に多く、日本での罹患率は約25%と推定されています。過敏性腸症候群(IBS)患者は前夜の睡眠の質的低下が翌日の過敏性腸症(IBS)の悪化度と相関があり、過敏性腸症候群(IBS)がレム睡眠(浅い睡眠)を増加させることが分かっています。過敏性腸症候群(IBS)患者の生活の質は障害されており、多大なストレス下にあると推測できます。

調査方法

東京圏在住の20~45歳の女性日勤者、女子学生及び専業主婦をランダムに抽出しました。解析に使用したデータ人数は988人です。日照時間、気温等の季節変化が睡眠健康に強く影響するため5月中の睡眠状態を6月第1週目に質問票を用いて調査しました。睡眠健康に関する質問事項は以下のようなもので、カテゴリー化されているものとカテゴリー化されないものから構成されています。

  • カテゴリー化されているもの
    1. 第一因子:睡眠維持障害関連因子
      • 中途覚醒回数
      • 熟睡感
      • 夜間排尿回数
      • 早朝覚醒感
    2. 第二因子:睡眠随伴症(パラソムニア・睡眠中の寝ぼけ行動)関連因子
      • 寝ぼけ発生の程度
      • 金縛り発生の程度
      • 恐怖性入眠時幻覚発生の程度
      • むずむず脚・四肢運動異常発生の程度
    3. 第三因子:睡眠時無呼吸関連因子
      • いびき発生の程度
      • 睡眠時無呼吸発生の程度
    4. 第四因子:起床困難関連因子
      • 起床困難感
      • 床離れまでの時間
    5. 第五因子:入眠障害関連因子
      • 睡眠薬使用の頻度
      • 入眠潜時(寝入るまでにかかる時間のこと)
  • カテゴリー化されないもの
    • 就床時刻
    • 起床時刻
    • 就床時刻の不規則性
    • 起床時刻の不規則性
    • 睡眠時間
    • 睡眠時間の不規則性
    • 睡眠の不足感
    • 平日の眠気

中途覚醒や夜間排尿回数のような回数に関する質問では回数を記入してもらい、床離れまでの時間や入眠潜時(寝入るまでにかかる時間のこと)に関する質問には時間を、就床時刻や起床時刻などの時刻に関する質問には時刻を記入してもらいました。その他の質問は4段階に分けられた内の一つを選択するという方法で回答してもらいました(熟睡感だけは5段階)。また、睡眠健康に影響すると考えられる生活習慣として、食事状況と1日当たり30分以上の運動状況も調査しました。

調査結果


上の図はカテゴリー化された質問事項に対する回答です。結果を見てみると、便通良好群(Cont)よりも過敏性腸症候群(IBS)もしくは機能性便秘(FC)の人達は、睡眠随伴症(パラソムニア・睡眠中の寝ぼけ行動)関連因子と睡眠時無呼吸関連因子においてScore値が高く、睡眠が不良だと考えられます。Fの睡眠健康危険度はA~Eの総合評価で、過敏性腸症候群(IBS)と過敏性腸症候群(IBS)+機能性便秘(FC)の人たちはScore値がやはり高くなっています。

上の図はカテゴリー化されていない質問事項に対する回答です。
平日の午前の眠気は便通良好群(Control)に比べて過敏性腸症候群(IBS)が高く、平日の午後の眠気は便通良好群(Control)に比べて機能性便秘(FC)が高く、平日の前日の眠気は過敏性腸症候群(IBS)も機能性便秘(FC)も便通良好群(Control)よりも高くなっています。便通不良の人は眠気を感じやすいということです。
就床時刻・睡眠時間・睡眠習慣の不規則性は、便通良好群(Control)に比べて過敏性腸症候群(IBS)も機能性便秘(FC)も高くなっています。便通不良の人は起床時刻以外の睡眠に関して不規則だと言えます。
食事に関しては朝食を抜く頻度は、便通良好群(Control)に比べて機能性便秘(FC)に増加していたそうです。夕食を抜く頻度は、便通良好群(Control)に比べて過敏性腸症候群(IBS)も機能性便秘(FC)も増加していたそうです。ということは機能性便秘(FC)の人たちは食事をする回数が少ないのでしょうか。食べないと出ませんよね。
運動量に関して差はありませんでした。

睡眠が悪化すると生活の質が低下し、不眠の度合いが高まるにしたがって低下の度合いは顕著になります。また、不眠は身体的活動と精神的活動性を低下させます。睡眠健康良好者に比べて仕事を10倍休みがちになるそうです。健康的で活動的な社会生活を送るためには睡眠は重要なのです。

便通不良群は便通良好群に比べて睡眠随伴症(パラソムニア・睡眠中の寝ぼけ行動)関連因子と睡眠時無呼吸関連因子においてScore値が高く、睡眠が不良という結果がでました。睡眠随伴症には寝ぼけや金縛り、恐怖性入眠幻覚という症状がありますが、これらの症状は多大な精神的ストレスによって増大するという報告があり、このような睡眠随伴症の出現は睡眠を質的に低下させる傾向があります。過敏性腸症候群(IBS)及び機能性便秘群(FC)における夜間の睡眠に質的低下は、翌日の日中の覚醒水準を低下させている可能性が高く、実験結果においても過敏性腸症候群(IBS)及び機能性便秘群(FC)の日中の眠気は増加していました。さらに、過敏性腸症候群(IBS)では平日の睡眠時間が有意に短く、便通障害の重症度がより高い過敏性腸症候群(IBS)では、睡眠の質だけではなく、睡眠の量も不足している可能性があります。

便通改善の方法は

良い睡眠を得るためには便通を改善すべきですが、改善するためには規則的な生活を送ることです。まずは起床時間を決めて朝日を浴びてください。そうすると体内時計はリセットされます。そして規則的に食事を摂取することにより、肝臓などの臓器に存在する代謝リズムを支配することが出来ます。人は本来朝に排便したいという欲求があります。これは、胃-結腸(大腸の主要部分のこと)反射によるもので、胃の中に食物が入っていない時、すなわち十分な睡眠をとった朝に食物が胃に入ると、胃-結腸反射は最も強く現れます。口と肛門は距離があるのに朝食をとると、押し出されるように便意を感じることがありますよね。過敏性腸症候群(IBS)及び機能性便秘群(FC)で朝食を抜く割合が高かったことは、規則的な胃-結腸反射が起きておらず、代謝リズムが乱れているのです。

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乱れているのは代謝リズムだけでなく生活全般かも

規則的な胃-結腸反射が起きていないため、代謝リズムが乱れているだけでなく、生体リズム全般が乱れている可能性があります。なぜなら、機能性便秘群(FC)は就床時刻や睡眠時間、睡眠習慣の不規則性が高かったからです。そして過敏性腸症候群(IBS)の平日の就床時刻は有意に後退しており、就床時刻の不規則性、睡眠時間の不規則性、さらに睡眠習慣の不規則性も有意に高かったからです。そして睡眠の質と量が悪化すると日中の覚醒レベルは低くなります。眠気を感じながら良い仕事や高い集中力は発揮できませんので、生活の質も低くなっているでしょう。過敏性腸症候群(IBS)において睡眠時無呼吸関連因子が対照群に比べて悪化していました。一般に若い女性では睡眠時無呼吸症候群の原因となるいびきの発生頻度は低いのです。いびきは上気道抵抗の増加によるものや、鼻炎や鼻中隔の異常によるものがほとんどで、軽・中程度深度の睡眠時に発生します。過敏性腸症候群(IBS)における睡眠時無呼吸関連因子の悪化は、ストレスを伴った浅眠化が原因となっている可能性があります。また、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の主な原因である閉塞は、筋弛緩や舌根の沈下によるものと考えられているが、過敏性腸症候群(IBS)においては末梢の消化管運動状態が脳の呼吸中枢に影響を及ぼしている可能性があるのです。呼吸中枢は延髄に、呼吸中枢を修飾する神経群が橋(脳幹部の一部)に存在し、呼吸リズムは調整されていると考えられています。また、人において結腸内をバルーンで拡張すると、橋の血流が増加し、神経活動が活性化させることが分かりました。これは、末梢の消化管運動の状態が常に脳でモニタリングされ、呼吸中枢を含む脳神経機能に影響を与えていると考えられるのです。つまり、便通の状態(消化管の運動状態)が睡眠を悪くしているのです。

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