温度環境を涼しいくらいの快適温度に整えよう

涼しいと感じるくらいが最も眠りやすい


深部体温を下げ、皮膚温度との差を縮めるでも記述していますように、深部体温の24時間周期で起こる変動は、皮膚からの熱放散によって制御されており、熱放散によって深部体温が下がると睡眠が誘発されます。熱が身体から逃げていく環境、つまり涼しいと感じるくらいが最も眠りやすくなります。暑がりな人、寒がりな人、男性や女性、子供やお年寄りなど基礎代謝が異なるので、心地よい温度は異なります。
また、体から熱が放出されないと眠れないのは、熱帯夜では眠りにくいという経験からもわかるでしょう。冬の時期、寝具が体の熱を逃がさないようにすることは寝具の役割ですが、度が過ぎると逆効果となります。しかし、何℃くらいが目安として最適温度といえるのでしょうか。

睡眠状態での最適温度は?

夏において、寝入るときの温度は26℃、寝てしまえば28℃です。

体温のサーカディアンリズムを考慮した夏期の睡眠時の温熱環境条件の評価という研究論文を引用・参考にしています。

着衣条件は綿100%の半そでTシャツとハープパンツとし、寝具は綿100%のタオルケットのみの条件で実験を行いました。室温条件は以下の通りです。室温28℃湿度60%を基準(条件1)として、就寝時気温28℃起床時気温26℃を条件2、就寝時気温26℃起床時気温28℃を条件3、就寝時気温28℃睡眠前半3時間かけて段階的に26℃まで低下させ1時間維持した後、睡眠後半は3時間かけて段階的に28℃にした条件4の、計4条件で実験を行いました。睡眠ポリグラフの結果から条件3はほかの条件よりもレム睡眠の出現率、睡眠時間の長さ及び、睡眠効率が高くなりました。また、主観的睡眠感では条件1と条件3で眠気が少なかったと回答しています。そのため、冷房は26℃にし、タイマー機能を用いて冷房が2時間や3時間で切れるようにするのが良いでしょう。

服を着ずに寝る人は

温熱環境と睡眠という研究論文を引用・参考にしています。

睡眠条件下で、裸で寝具もない場合、最適温度は29~30℃です。この温度は入眠するのに最適な温度ではありません。寝ている状態の最適温度です。29℃というのは、人の代謝量が最も低くなる温度です。代謝量が最低になる条件というのは、動く必要がない環境ということです。そのため、最も睡眠に適した温度ということができます。裸で29℃の場合、徐波睡眠とレム睡眠が最も長くなり、覚醒が少なくなります。脳波は脳の活動水準が高いほど周波数の高い波が多くなり(速波化)、活動が低下すると周波数の低い波が多くなります(徐波化)。周波数の高いほうから、覚醒、レム睡眠、睡眠段階1~4をノンレム睡眠と呼びます。徐波睡眠とは、睡眠段階3と4を合わせた睡眠で、深い睡眠と言えます。その徐波睡眠の時間が長くなるということは深く眠れている時間が長いということであり、質の高い睡眠となります。

気温34℃では徐波睡眠やレム睡眠が減って睡眠段階1が増えますが、覚醒や増加するには至りません。気温37℃ではさらに徐波睡眠やレム睡眠が減少し、睡眠段階1が増えるとともに覚醒が顕著に増加します。レム睡眠が減る理由としては、レム睡眠時には体温調節機能がうまく作動しないことが理由として考えられます。
では29℃よりも低温の場合はどうでしょう。その場合、徐波睡眠やレム睡眠が減少し睡眠段階1と覚醒が増えます。21℃では覚醒の増加が著しくなります。裸の場合、気温の低下により身体の恒常性を維持できないので、覚醒することにより体温の低下を抑制し、生命維持を図ろうとします。
温熱刺激により、徐波睡眠は睡眠段階1または睡眠段階2へ移行し、レム睡眠は覚醒へと移行します。これらの睡眠段階の変化は、温刺激よりも冷刺激でより頻繁に起こります。下の図では、徐波睡眠とレム睡眠の妨害率を表しています。徐波睡眠において温刺激の妨害率は30%程ですが、冷刺激では60%も妨害されます。レム睡眠では温刺激の妨害率は70%程で、冷刺激の妨害率は80%程となっています。

睡眠において湿度は重要か

湿度は高温時に負荷となります。

以下の記事はEffects of Humid Heat Exposure on Human Sleep Stages and Body Temperature.という研究論文を引用・参考にしています。

気温29℃と35℃、相対湿度50%と75%の組み合わせ4条件について裸の青年男性について行った実験があります。睡眠の深度は、35℃になるほど75%になるほどレム睡眠と徐波睡眠が減少し覚醒が増加しましたが、29℃では湿度による睡眠の違いは顕著ではないとしています。ただ、表を見ると湿度が低い50%のほうが深い睡眠である徐波睡眠の時間は短くなっています。そして35℃75%の高温高湿状態は、29℃50%と比較すると徐波睡眠の時間が半分以下になっています。


湿度が高くなると皮膚からの汗の蒸発が抑制される可能性があります。高温高湿環境で覚醒が増える理由としては、発汗の蒸発が抑えられると皮膚表面の濡れ面積が増えるからだと考えられます。濡れ面積率と不快感との相関関係は覚醒中の試験において確認されています。そして、睡眠中も同様に濡れ面積が増えると不快感は上昇し覚醒が増える、または、濡れ面積率の増加は体温調節に不利なので、体温調節を担保するために覚醒が増える、と両方の可能性が考えられます。

綿パジャマ着用の青年男子を被験者とした実験では、気温28℃湿度40%と気温26℃湿度75%を比較すると、気温26℃湿度75%のほうが睡眠段階1の割合が多くなり、寝つきの感覚は悪くなりました。このことは湿度を低くすると睡眠の質の低下を防ぐことが可能だと示唆しています。また、28℃で湿度40%、60%、80%で比較すると、睡眠や直腸温、発汗量にあまり差はなかったみたいです。

夏の暑い時期はエアコンの使用で睡眠を改善しよう

冷房を上手に使用することで良い睡眠を得ることができます。暑ければ使用したほうがよく、前半だけでも構いません。
綿パジャマ着用の青年男性を被験者として、気温32℃湿度80%の高温高湿環境と、気温26℃湿度50%の冷房環境での睡眠を比較した実験があります。気温32℃湿度80%でパジャマを着ると衣服内は36℃90%となり、発汗量は冷房時の2倍となりましたが、直腸温は低下しませんでした。その結果、気温32℃湿度80%の高温高湿環境では深い睡眠である睡眠段階4と睡眠段階2が優位に短くなり、睡眠段階1と覚醒が増加しました。これは深く眠れていないことであり、中途覚醒も増加したということです。睡眠効率(眠った時間÷布団の上にいた時間)においては、高温高湿環境では78%、冷房時は93%であり、冷房によって睡眠効率が上昇しています。

睡眠の前半部分を冷房あり(気温26℃湿度50%)とし、後半部分で冷房を切った場合(気温32℃湿度80%)でも、睡眠の前半で十分な睡眠が保持できると後半は冷房なしで皮膚温や直腸温が上昇してもそれほど睡眠は劣化しません。では、後半のみ冷房を入れた場合はどうでしょうか。後半のみの冷房は、前半にかいた汗が皮膚や着衣に滞留することにより周囲温度の低下によって衣服内温を急激に低下させます。これが寝冷えの原因となるようです。後半のみ冷房を使用した場合の睡眠深度については、前半は徐波睡眠が少なく、覚醒が多くなります。しかし、後半は徐波睡眠が多くなります。これは、前半に徐波睡眠が抑制され、高まった睡眠圧のために後半の徐波睡眠が多くなるリバウンド現象だと考えられています。生体リズムに影響を与えたことになりますので、起床後の生体リズムの乱れや睡眠慣性などが懸念されます。また、エアコンの冷風が身体に直接あたると、心拍の上昇、体動回数の上昇、覚醒へとつながりますので注意してください。

冷房嫌いであれば扇風機で

気温32℃湿度80%の高温高湿状態で、扇風機を使用した場合(足元から顔へ風速1.7m/s、弱・中・強とボタンがあれば、弱です。)と使用しなかった場合を比較しました。使用した場合は足皮膚温度と直腸温が0.3℃程低下しました。さらに寝床内温湿度は低く保たれ、発汗量は少なくなり、中途覚醒を減少させました二酸化炭素濃度の上昇は睡眠の質を落とす原因となりますが、扇風機は換気効果がありますので、一石二鳥です。よって、扇風機の使用は睡眠効率の改善になります。

冷却枕でも効果はあります

高温高湿状況下で普通の枕を使う場合と、高温高湿状況下で冷却枕を使う場合と、冷房が効いた条件下で普通の枕を使う場合の3条件を比較しました。冷却枕を使うと皮膚温度や直腸温には影響を与えませんでしたが、起床時の鼓膜温度を低下させ、睡眠中の発汗量を減少させました。その結果、中途覚醒が減少し、睡眠効率が改善しました
冷却枕は、ジェル素材で再使用可能なものや、水や氷を入れて使用するものなどがあります。その他、ネッククーラーや冷感敷パッドといったものもあります。
また、通気性の良い枕でも効果はあります。通気性の良い枕は使用時に氷や冷却を必要とせず、濡れる心配もありません。

こんな冷却枕あります

温度調節が可能で二酸化炭素やフロンも発生しません。モーターがないので無音で、ジェル素材によって頭にフィットする枕です。
快適な睡眠をサポートする「KUU PILLOW」(クーピロー)

冬の寒い時期は

冬の寒い時期には電気毛布や温風寝具が良いでしょう。
寝具使用時の体温調節や睡眠深度に関しての研究があります。作用温度(体感温度と考えてください)が13℃~25℃の範囲でパジャマを着用し綿シーツ2枚とウール毛布1枚を使用した場合について睡眠深度を比較しました。作用温度13℃ではレム睡眠が短縮し、覚醒が増加しました。16℃では覚醒の回数も時間も減少しました。また、就寝中の被験者の直腸温と寝床内温度を測定したところ、寝床内温度は28.6℃~30.9℃となり、直腸温は作用温度よりも寝床内温度との相関が高くなりました。そして、最適な作用温度は19℃だと報告しています。
冬に高齢者を対象に行った実験で、寝室の温度が10℃以下(平均6.2℃)と10℃以上(平均11℃)の比較では、10℃以下の睡眠効率が低くなり(10℃以上:96%、10℃以下:89%)、覚醒時間も長くなりました(10℃以上:3.1分、10℃以下:7.6分)。
高齢者や冷え性の女性では冬に布団に入った時の冷たさや不快感、足の暖まらないことが原因で寝付くまでに時間がかかり、睡眠が妨げられることがあります。そこで、布団に入る前に電気毛布等で暖めておきましょう。しかし、就寝中に暖まりすぎた寝床内温度は負荷となるため、布団に入る際には電源を切ったり、タイマーを設定しておくなどの工夫が必要です。

コメント

  1. […] 室温 […]