運動することは腸内環境を整えることになり、睡眠の質が向上する

睡眠に影響する行動

運動することで腸内細菌フローラをより良い状態にすることが出来る

Exercise Interventions Improved Sleep Quality through
Regulating Intestinal Microbiota Composition
という研究論文を引用・参考にしています。

睡眠は腸の状態と密接に関わりがあります。便通の状態が悪い人は睡眠の質が悪く、便通の良好な人は質の良い睡眠が得られています。腸内細菌は消化を助け、栄養素の吸収を促進し、複数のビタミンやアミノ酸を産生し、毒素を中和します。このことは免疫システムにおいても重要なのです。では、どうすれば腸内環境は変えることが出来るのでしょうか?ここでは週3回の運動で腸内環境を良い状態にすることが出来るという論文を紹介します。

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方法

実験群と対照群にそれぞれ8週間の運動介入を行いました。運動介入前後の実験群と対照群の腸内フローラの変動と睡眠の質の向上との関係を解析しました。腸内フローラの変動は、大便から採取した微生物の同定試験を行い、どのような微生物がどれくらいの割合で存在するかを調査しました。

実験対象者

瘦せ型(BMI≦18)で睡眠不良(ピッツバーグ睡眠品質指数(PSQI)≧7)の大学生11名を実験被験者として選び、さらに健常者11名を対照被験者として募集しました。計22名です。
BMIは肥満度を評価する基準で、世界保健機関(WHO)では、BMI16未満は痩せすぎ、BMI16~16.99が痩せ、BMI17~18.49が痩せ気味、BMI18.50~24.99が普通、BMI25~29.99が前肥満、30~34.99が肥満(1度)、35~39.99が肥満(2度)、40以上は肥満(3度)となっております。また、ピッツバーグ睡眠品質指数では0~21点で表され、6点以上が睡眠不良群だと診断されます。そのため、実験被験者として選ばれた人達は痩せ型の睡眠不良群であると言えます。

運動

8週間スケジュールに従って日常の生活習慣の維持と、運動の実施をしてもらいました。運動は1週間に3回、8~9km/hのスピードで4~7kmジョギングしてもらいました。1ヶ月間で48~84km走ったことになります。

睡眠の質と便の調査

運動の前後で被験者にピッツバーグ睡眠品質指数を用いて問診を行い、便を採取しました。
運動前に実験群(痩せ型の睡眠不良群11名)から採取した便をE群とし、運動後に実験群から採取した便をT群としました。一方、運動前に健常者(11名)から採取した便をC1群とし、運動後に健常者から採取した便をC2群としました。生活習慣が腸内細菌フローラに及ぼす影響を可能な限り排除するために、1週間で得た便を1つのサンプルとし、1人から3検体を採取しました。

運動前 運動後
実験群(痩せ型・睡眠不良) E T
対照群(健常者) C1 C2

 

結果

運動前後のピッツバーグ睡眠品質指数(PSQI)

実験群における運動後のピッツバーグ睡眠品質指数(PSQI)は運動前よりも下がっていました。ピッツバーグ睡眠品質指数(PSQI)は6点以上だと睡眠に障害ありと診断されますが、運動後では6点よりも低くなっていました。(実験群と対照群には年齢やBMIなどの人口統計的な違いはありません。)運動介入後、睡眠障害群の睡眠の質が改善され、腸内フローラが変化したことが明らかになりました。別の研究では、大学生の睡眠の質はスポーツ活動への参加度と密接な相関があり、定期的にスポーツを行っている大学生の睡眠障害発生率は、スポーツをしない学生よりも有意に低いことが示されています。

便に存在する微生物とその割合

検出された全ての腸内細菌叢は、Firmicutes、Proteobacteria、Bacteroidetes、Actinobacteriaに属していました。E群(実験群・運動前)での主な菌は、Firmicutes(70.44%)、Bacteroidetes(19.79%)、Proteobacteria(6.00%)、Actinobacteriotia (3.28%)を含んでいました。そしてC1群(対照群・運動前)でもFirmicutes(67.50%)、Bacteroidetes(26.89%)、Proteobacteria(3.22%)、Actinobacteriotia (2.08%)が上位4門の微生物群でした。
運動後、上位の微生物群は運動前と同じ4門でしたが、それぞれの存在比が変化しました。T群(実験群・運動後)ではFirmicutes(81.96%)、Actinobacteriotia (8.21%)、C2群(対照群・運動後)ではFirmicutes(71.84%)、Actinobacteriotia (4.22%)となり、存在割合が増加していました。一方、T群(実験群・運動後)ではBacteroidetes(6.99%)、Proteobacteria(2.59%)、C2群(対照群・運動後)ではBacteroidetes(20.32%)、Proteobacteria(3.17%)となり、存在割合が減少していました。

FirmicutesとActinobacteriaの割合は運動後に増加し、BacteroidetesとProteobacteriaの割合は運動後に減少したのです。

Firmicutes Bacteroidetes Proteobacteria Actinobacteria
実験群 運動前E 70.44% 19.79% 6.00% 3.28%
運動後T 81.96% 6.99% 2.59% 8.21%
対照群 運動前C1 67.50% 26.89% 3.22% 2.08%
運動後C2 71.84% 20.32% 3.17% 4.22%

生物の分類は、界・門・綱・目・科・属・種というふうに分けられ、界が最も大きな分類群で、種が小さな分類群です。例えば、樹木の1つである檜(ヒノキ)はオオカミと、植物界と動物界という界レベルで異なります。オオカミとコヨーテは異なる種ですが、属レベルでは同じイヌ属という分類群に属しています。
先ほど出てきた微生物は門レベルで分類されていますので、かなり大きな(上位レベルの)分類群です。

次に属レベルで微生物の解析を行いました。その結果、E群(実験群・運動前)では、Faecalibacterium(13.80%)、Agathobacter(10.96%)、Megamonas(5.77%)の3属が優勢であることが分かりました。C1群(対照群・運動前)では、Bacteroides属(13.80%)、Prevotella属(10.96%)、Subdoligranulum属(4.45%)が優勢でした(図1B)。次は運動後の結果です。T群(実験群・運動後)では、Faecalibacterium(18.30%)、Blautia(9.95%)、Subdoligranulum(4.45%)の順で増加し、Agathobacter(6.95%)、Bacteroides(4.08%)、Prevotella(0.53%)はそれぞれ減少しました。C2群(対照群・運動後)ではAgathobacter(12.91%)とBlautia(7.69%)が増加し、Bacteroides(8.48%)は減少しました。

Faecalibacterium Agathobacter Megamonas Blautia Subdoligranulum Bacteroides Prevotella
E群 13.80% 10.96% 5.77%
T群 18.30% 6.95% 9.95% 4.45% 4.08% 0.53%
C1群 4.45% 13.43% 10.94%
C2群 12.91% 7.69% 8.48%

微生物の種類の豊富さについて統計解析を行ったところ、E群(実験群・運動前)とC1群(対照群・運動前)では差が有りました。運動の影響についてですが、健常者である対照群学生の腸内フローラの多様性に有意な影響を及ぼさなかったが、睡眠障害のある実験被験者にはその効果は顕著でした。

以上のことから、睡眠不良者と健常者の腸内細菌フローラは異なることが分かり、運動は腸内細菌フローラを変化させることが分かります。

既存の研究では、運動頻度が高い人ほど腸内フローラの多様性が高く、特にFaecalibacterium属の多様性が高いことが分かっています。Faecalibacterium prausnitziiという微生物は、食物繊維の発酵による酪酸などの短鎖脂肪酸を産生することが知られています。また、不眠症患者の人はFirmicutesに属する微生物が少ないことも分かっており、Firmicutesに属するBlautiaとRuminococcusの増加が、睡眠の質の向上に寄与することが分かっています。微生物が睡眠と覚醒に関連する神経伝達物質を産生し、脳腸軸を通じて睡眠の質に影響を与える可能性があることを解明した研究がいくつかあるのです。

属レベルにおいて、Blautiaは運動介入前後で差がありました。Blautiaはプロバイオティックな特性を持っており、生体内で高濃度の酪酸などの短鎖脂肪酸を産生し、病原性最近の感染を防止します。Agathobacterも睡眠の質に影響を与える微生物です。その代謝産物は酪酸、酢酸、水素、乳酸などで腸内の生理機能において重要な役割を担っています。酪酸産生菌や酪酸関連代謝物がメラトニンと関連しているという報告もあります。メラトニンは概日リズムや季節変動など、人が生活するうえで欠かせないリズムの形成に関与しているとされる物質です。Eubacterium halliiという微生物も短鎖脂肪酸を産生します。しかもこの微生物はインスリン耐性とエネルギー代謝を改善するというのです。

不眠に悩む人は、運動して腸内細菌フローラの変革に努めましょう。また、腸内細菌に酪酸などの短鎖脂肪酸を生産してもらうためには、細菌のエサとなる食物繊維が必要です。食物繊維も忘れずに摂りましょう。食物繊維は、ラッキョウや大麦、海藻やキノコ、大豆、そしてキャベツやダイコンなどの野菜にも多く含まれています。日本の1日の摂取目安量は成人男性が21g、成人女性が18gとされていますが、実際には成人男性が17.5g、成人女性が14.5g程となっており、不足しています。サラダを大量に食べれるかというと、大量に食べることなどできません。最も簡単なのは、難消化性デキストリンやイヌリンといった市販されている食物繊維を購入し、液体に溶かして飲むことです。より安全にということであれば、白米に玄米をプラスすることで摂取量を増やすことが出来ます。果物を食後に摂ることもおすすめです。あなたはリンゴの皮をむいて食べますか?皮ごと食べれば食物繊維の摂取量はアップしますよ。キウイの中身をスプーンですくえば手間はかかりません。ぜひ、工夫して積極的に摂りましょう。

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