腸内環境を整える

腸内環境を整えよう

腸内環境を整えることは睡眠の改善に役立ちます。なぜなら、腸内細菌が宿主(人)の概日リズムの安定化に影響力を持っているからです。

睡眠と腸内細菌叢という研究論文を引用・参考にしています。

睡眠が腸管機能に与える影響は古くから知られています。夜間勤務者や旅行者には消化管症状を訴える頻度が多いからもわかります。その機序としては睡眠障害がストレスとなり、交感神経の活性化やコルチゾールの分泌増加をもたらすことなどが想定されてきましたが、最近の腸内細菌の分子生物学的検討により、腸内細菌に日内変動が認められることが見出されています。また、睡眠の変化が腸内細菌の組成や機能にも影響を与えていることが明らかになってきました。さらに、腸内細菌の機能解析が進んだことで、睡眠の変化によってもたらされた腸内細菌の機能変化が、宿主(人)のエネルギー代謝に影響を与え、肥満やインスリン抵抗性の誘因となることも明らかになっています。末梢器官である腸管も時計遺伝子の影響を受けるのですが、腸内細菌の種類や割合・機能において、概日リズムがみられるのです。

睡眠障害は概日リズムを失くさせ、腸内細菌の組成を変化させる

時差ぼけや睡眠時間の短縮といった変調は、腸内細菌の組成や機能、概日リズムに変調をもたらします。

以下の記事はCircadian Disorganization Alters Intestinal Microbiotaという研究論文を引用・参考にしています。

明期と暗期を1週間ごとに変更する睡眠障害(通常は半日で明期と暗記が来ます)をマウスに与えたところ、大腸での概日リズムが消失しました。

また、高脂肪高糖質食を投与されたマウスは通常の食事を投与されたマウスと比較して、腸内細菌叢においてFirmicutes(分類における門レベル)が増加し、Bacteroidetes(分類における門レベル)という腸内細菌が減少しました。下の図がそれを示しています。図におけるNSつまりnon-shiftedは通常の明期と暗期の条件で生育させていたマウスで、Sつまりshiftedは明期と暗期を反転させた条件で1週間生育させたマウスです。NSとSのマウスの比較では、腸内細菌叢は大きな変化はありませんでした。しかし、食事の変化によって腸内細菌叢に大きな変化が起きていることが分かります。通常の食事を摂っていたマウスのFirmicutesは50%程でしたが、高脂肪食に変更すると70%以上に変化しています。また、通常の食事を摂ったマウスのBacteroidetesは40%程でしたが、高脂肪高糖質食を摂ったマウスは10%程に減少しています。

また別の研究では、明暗期のサイクルは変えずに4週間の触覚刺激による睡眠障害をもたらす介入実験を行っています。その結果、LachrospiraceaeとRuminococcaceae(分類における科レベル)が増加し、LactobacillaceaeとBifidobacteriaceae(分類における科レベル)が減少しました。なお、この腸内細菌の変化は、睡眠障害を中止して2週間後には消失していました。

腸内細菌が変化することによって起こる現象

このように、腸内細菌の組成が変化することで、様々な現象を引き起こします。

以下の記事はChronic Sleep Disruption Alters Gut Microbiota, Induces Systemic and Adipose Tissue Inflammation and Insulin Resistance in Miceという研究論文を引用・参考にしています。

例えば、腸管内の代謝産物が変化(D-マンノース、クエン酸、プロピオン酸の利用低下)します。睡眠障害マウスの腸管内容物はin vitroで腸管細胞株のバリア機能を低下させたことから、睡眠障害マウスの腸内細菌は腸管バリア機能障害を引き起こしている可能性が考えられます。実際に、これらのマウスの腸内細菌を無菌マウスへ移植したところ、睡眠障害を来したマウスの腸内細菌を移植された無菌マウスでは、IL-6などの催炎症性サイトカインの血中濃度が増加を認め、インスリン抵抗性の増悪が認められました。またマクロファージなどの細胞膜に存在するLPS受容体にLPSを輸送するLipopolysaccharide-binding protein(LBP)の血中濃度も睡眠障害マウスでは増加を認めていました。このことから睡眠障害モデルでは、腸内細菌叢の変化と腸管バリア機能低下が生じ、血中へのLPS流入が増加していると考えられます。

以下の記事はGut microbiota and glucometabolic alterations inresponse to recurrent partial sleep deprivation innormal-weight young individualsChristianという研究論文を引用・参考にしています。

2日間の短時間睡眠や、8時間程度の飛行機移動で被験者に時差ボケを引き起こすと、被験者の腸内細菌ではFirmicutesが増加し、Bacteroidetesが減少します。その時差ボケ中の被験者の腸内細菌を無菌マウスに移植すると、平常時の腸内細菌を移植されたマウスに比較して体脂肪蓄積の促進、耐糖能(インスリンの感受性であるインスリン抵抗性が低下したり、血中のブドウ糖濃度である血糖値が高くなった時に正常値まで下げる機能)の増悪が認められました。飛行2週間後の時差ぼけが解消した被験者の腸内細菌は偏りは解消していました。

以下の記事はOxalic acid and diacylglycerol 36:3 are cross-species
markers of sleep debt
という研究論文を引用・参考にしています。

他には、10時間の睡眠時間を4時間に制限した場合、血中代謝産物の変化が報告されており、腸内細菌の代謝産物であるピコぺリン酸の増加が認められています。ピペコリン酸はピリドキシン依存性てんかんの診断指標として提案されています。

以下の記事はIntermittent hypoxia alters gut microbiota
diversity in a mouse model of sleep apnoea
という研究論文を引用・参考にしています。

以下の記事はLipopolysaccharide-Binding Protein Plasma Levels in Children: Effects of Obstructive Sleep Apnea and Obesityという研究論文を引用・参考にしています。

睡眠障害には低酸素を伴う場合もありますが、低酸素は腸管機能と腸内細菌に影響を与えることも報告されています。間欠的低酸素が腸内細菌叢を変化させることがマウスモデルで示されており、ヒトにおいても睡眠時無呼吸症候群が、肥満と独立して血中LBPの増加と関連していることが報告されています。間欠的な低酸素は腸内細菌と腸管バリア機能へ障害を与えていると考えられます。

腸内細菌叢の変化が宿主(人)のエネルギーの代謝異常症を引き起こし、肥満症や高血圧などの生活習慣病の発症の原因となります。

腸内細菌を介した概日リズムと睡眠制御の可能性

以下の記事はEffects of Diurnal Variation of Gut Microbes andHigh-Fat Feeding on Host Circadian Clock Functionand Metabolismという研究論文を引用・参考にしています。

腸内細菌自体が宿主の概日リズムに影響を与えることが無菌マウスを用いて示されています。無菌マウスと通常マウスの視床下部内側基底部や肝臓の時計遺伝子BmallやClockの発現を比較し、通常マウスでは概日リズムが認められたが、無菌マウスでは概日リズムが衰弱していることを見出しました。この現象は食事内容には影響を受けないことも明らかとなり、腸内細菌の存在が規則正しい概日リズムの発振に必須であることが明らかになりました。また、腸内細菌は数多くの代謝産物を生産していますが、その中に酪酸という物質があります。この酪酸は腸管の概日リズム形成に役立っています。ただ、食事をしても概日リズムがみられたことから、酪酸と摂食が概日リズム形成に関係していると考えられます。
腸内細菌の存在がなければ腸内細菌からの酪酸生産がなくなりますので、概日リズムが不安定になります。すると糖の吸収が増加し、ペプチドの吸収は減少します。さらに中性脂肪やコレステロールが増加するのです。

腸内細菌は睡眠において、とても重要な役割を担っていますので、腸内環境はしっかりと整えましょう。

コメント

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